悩める若手大学職員のブログ

今後のキャリアプランに悩む大学職員です。日々感じたことや読んだ文献を記事にします。更新は不定期です。

感想:岩井洋(2020)『大学論の誤解と幻想』弘文堂

お盆休みに入りましたが、帰省もできず、外にも遊びに行けないので、勉強用のデスク、椅子、チェアマットを購入し(合計35000円)、積読を崩しはじめました。

一冊名は 岩井洋(2020)『大学論の誤解と幻想』弘文堂 です。目次は以下のとおり。

 序章  大学論を語る前に

 第一章 アクティブ・ラーニングの誤解と幻想

 第二章 グローバル人材と英語幻想

 第三章 もうすぐ絶滅するという文系学部について

 第四章 改革は静かに、そして合理的に失敗する

 第五章 大学経営の虚像と実像

 第六章 実践的・大学教育論

 終章  大学教育はどこへいくのか

タイトルから分かるように、世間で語られる「大学」についての議論に含まれる様々な誤解や幻想を考察し、それを踏まえた筆者の大学論も紹介されています。

この本のよかった点は「今までどこかでは絶対聞いたことがあるけれど、その出典は忘れてしまった or どういうロジックでその主張がなされたのかも忘れてしまった」という言説やデータを整理してくれていた点です。

大学過剰論、大学無用論、大学不要論、ティーチングからラーニングへの転換、ALについて、ラーニング・ピラミッドの誤用、G型L型大学、文系学部不要論など、自分が忘れかけていたり議論や主張について、ざっくりと復習することができました。

筆者が第六章で提案する「本来の意味でのセメスター制」(学生が一学期に履修する科目を5〜6科目に減らし、一科目ごとの比重を大きくする)は、学会の雑談や私の職場でもたまに話に挙がりますし、実際そのアイデアが頭にある大学幹部は多いのではないでしょうか。しかし、既存の学部で「本来の意味でのセメスター制」を実際に導入しようとすると、カリキュラムの見直しをはじめとする実務的な仕事はもちろん、専門性の異なる教員間の泥臭い調整もあり、実現は難しいでしょう。

ただし、「学位プログラム」などのある程度柔軟性のある仕組みを利用すれば、「本来の意味でのセメスター制」を実現し、そのプログラムが優れた成果を挙げることで、他大学も影響を受け「本来の意味でのセメスター制」の導入を目指す…というシナリオもあり得るのでしょうか。

この本は、大学の事情やここ数年の大学に関わる議論を知っている大学関係者にとっては目新しい情報が少ないかもしれません。一方で、企業の方々や高校生・大学生の子どもを持つ親御さんなど、大学と距離はあるが大学に対して思うところのあるであろう方々には、誤解や幻想に惑わされずに大学を知ってもらうという意味で、ぜひ読んでいただきたい本でした。