悩める若手大学職員のブログ

今後のキャリアプランに悩む大学職員です。日々感じたことや読んだ文献を記事にします。更新は不定期です。

感想:横山陽二(2020)『企業人から大学教員になりたいあなたへ 元電通マンの大学奮闘記』ゆいぽおと

本の概要等をネットで見て気になったので2日前に本書を購入し、早速読んでみました。タイトルのとおり、大学教員になりたい企業人に向けて、企業人から大学へ移った経緯や大学教員の仕事などについて書かれた本で、目次は以下のとおりです。

第1章 大学専任教員になるまでの軌跡

第2章 専任教員になるために

第3章 大学「教育」の今

第4章 大学における「研究」活動

第5章 社会貢献活動

第6章 大学教員の”いろいろな”仕事

第7章 横山ゼミナール

第8章 大学の課題と可能性ー企業人の視点からー

私自身は企業人でもなく、大学教員になりたいという気持ちも今はそこまでありませんが、非常に楽しく、また、筆者の活躍するフィールドや本籍地が三重県菰野町)であり、私が三重県出身なこともあって、親しみをもって読み進めることができました。あと、個人的に本の装丁が好みでした。

以下、章ごとの感想&メモです。

第1章 大学専任教員になるまでの軌跡

・読み始めかてら3行目に「名古屋で曽祖父の代から病院を経営する家に生まれ・・・」(10頁)。

→上流階級!文化資本が高そう(?)!と思ったが、本書の本筋にはあまり関係なかった。

電通の文化等についていくつか述べられていた

→噂で聞くとおりの文化(過去のものではあるが)。

第2章 専任教員になるために

・教員になるための方法を紹介

第3章 大学「教育」の今

・大学教員の仕事の種類とその忙しさ、また仕事の魅力(やりがい)について紹介

・「電通的」(60頁)という言葉が出現

→すんなりと頭に入ってきたが、よく考えると「電通」という企業に「的」をつけるこの用語が特殊に感じた。電通という企業の大きさや電通という企業の特別感がないとこのような言葉は生まれてこない気がする。筆者の造語なのか、もしくは広告業界等では一般的なのか…。

第4章 大学における「研究」活動

・実務家(教員)が新しいプロジェクトに取り組む際の勉強や実態調査も「研究」に含めつつも、「研究なくして教育なし。研究なくして社会貢献なし」(60頁)という実感。

→実務家教員への反対意見として「研究実績」の乏しさや実務家教員の研究の軽視が挙げられるが、アカデミックな研究を行ってこなかった実務家教員である筆者が大学教員としての8年間を通してこのような実感が生まれた。純粋にアカデミックなものでないにしても、絶えず「知」を更新していく意識を持った実務家教員がいることは大学・学生にとって非常に有益。

・企業人は期限に厳格であるが、一方、アカデミア出身者は・・・(87頁)

→企業経験のある教員が増えれば私の部署の仕事も少しスムーズになるのでは…と少し思ってしまった。

第5章 社会貢献活動

・筆者が掲げる、大学教員における社会貢献の基本方針3点(地域への識者としての知の還元、教育を通じた地域課題の解決、様々なメディアを通した知の還元)

→わかりやすい3つの方針であり参考になった。

第6章 大学教員の”いろいろな”仕事

・大学運営、オープンキャンパス、入試運営などを紹介

→こういった業務の負担についても発信されるべきだと思っていたので、ちゃんと書かれていてよかった。

第7章 横山ゼミナール

・筆者のゼミの活動についての紹介

→産官学連携やPBLの例として非常に面白かったし、参考になった

第8章 大学の課題と可能性ー企業人の視点からー

・近大が入試運営業務を外注化し、教員の運営業務の負担を減らす取組をしている

→知らなかったのでメモ。本学でも実現しないだろうか…。

・教員の負担を減らす方法として、余剰金を内部留保に回さず教職員の増員に回す方法があるが、こうした対策ができないのは、大学の法人に教員の経験者がいないためでは?

→実際、教務課の職員としては教育の現場で働く教職員を増やしてほしいと感じる。これが実現しない理由としては、大学の法人である程度の決定権を持つポストに就く頃には教員の負担という「現場感」を忘れてしまっている可能性や、教員の苦労をよく知っている「現場」に長くいる職員は法人本部で高いポストに就けない文化がある可能性が挙げられる。また、大学の競争が激しい時代において、念のため内部留保に多くの資金を回したいと思うのかもしれない。加えて、地味で広報的に魅力がなく短期的な視野で見ると大学に利益を生み出さないように見える教職員の増員(ソフト面)へは資金が回らず、都市部へのビルキャンパスの設置など大学のブランド向上や学生募集にすぐに効果がありそうな取組(ハード面)に資金が回っているのかもしれない。

・「安定した生活基盤のうえにこそ、非常勤講師は成り立つものである」(188頁)

→本当にそのとおり…

 

最後に

大学教員という仕事の「魅力」と「多忙さ」を両方知ることができる点で、タイトルどおり大学教員になりたい企業人にとって、また産学官連携を考える方にとっても非常に有益な本だと思います。また、最近何かと「サボっている」「楽している」と批判されがちな大学教員の「多忙さ」について、その実態を知ってもらえるという点で、大学教員になりたいとは思っていない企業人等にも読んでもらいたい一冊でした。