悩める若手大学職員のブログ

今後のキャリアプランに悩む大学職員です。日々感じたことや読んだ文献を記事にします。更新は不定期です。

感想:上杉道世(2019)『大学職員のグランドデザイン 人口減少、AIの時代を生き抜く大学職員』学校経理研究会

大学職員になって3年目。「大学職員としてどのような仕事がしたいのか」「大学職員という立場は本当に自分のやりたいことができる立場なのか」など、最近は自身のキャリアについて考えることが多くなりました。これまでの大学職員に求められたもの、そして、これからの大学職員に求められるものは何かを提示しているのが本書『大学職員のグランドデザイン 人口減少、AIの時代を生き抜く大学職員』(http://www.keiriken.net/grand-design.pdf)です。

【概要】

「高等教育の将来像の提示→将来の大学職員像の提示」という流れで、大学職員という職種のグランドデザインを提示しています。筆者が元文部省職員ということもあるのか、本書では、大学設置基準といった法令や中央教育審議会答申などを軸(根拠)として、現状を分析し将来像を提示しています。また、最終章(第5章)は、30冊以上の高等教育関連書籍のブックレビューを掲載しており、読書案内としてもおすすめです。 

【良かった点】

  •  各種答申を基に「これからの大学職員はどうあるべきか」をテーマに据えたセミナーや勉強会は多く開かれています(よく現役官僚の方が登壇されている気がします)。私もいくつか参加したことがありますが、この本は、それらのセミナー等で語られている話をより具体的にかつ整理したうえで文章化している印象を受けました。本書を読むことで、今まで受けてきた類似のテーマのセミナーを丁寧に総復習できました。
  • 将来の大学職員像をタイプ別で提示している点、そして、具体的な業務カテゴリ(入試、教務、研究支援等)に分けて必要な知識や能力を列挙している点が、これからのキャリアを考えるうえでの非常に参考となりました。
  • 私自身が現在関心を寄せている「教学マネジメント」にある程度のページ幅が割かれ、大学職員が具体的にどのようにそこで力を発揮できているかについて書かれていた点も良かったです。
  • 将来の大学職員像を語る中で、大学を経営(運営)する視点でその育成方法や人事制度に言及している点も、読みながら「弊社の人事はどうだろう…」と改めて考える契機となりました。

【気になった点】

  •  文科省の政策を拠り所にして大学業界の現場や将来像が語られている点については、少し違和感を感じる部分もありました。文科省と大学の関係については「面従腹背」などと言われおり、文科省万歳!という気持ちで大学の現場が動いているわけでもなく、また、高等教育の研究者をはじめ大学に所属する多くの研究者が文科省の政策について様々な意見を持っていることも踏まえると、筆者のスタンスをある程度理解したうえで本書を読み進める方がいいかもしれません。
  • 一般の企業から大学に就職する方、もしくは大学の外から理事などの大学の要職に就く方が本書を読む場合は、本書が大学経営者・政策立案者の立場から書かれていることに注意が必要かと思います。将来像は少し皮肉な言い方をすれば理想論ですし、この本の全てを鵜呑みにするのは少し危険かもしれません。
  • 提示している職員像(類型)が複数あり、それぞれの類型の関係性が明確にされていませんでした。
  • 「大学教育が職業人としての資質能力を育てる機能を持ち、その成果を成績判定でみることができ、企業等はその成績判定を信頼して採用を行うべきであり、多くの国はそうなっている」(p.284)という記述がありましたが、本当でしょうか?・・・学術的な根拠に基づくタイプの本ではありませんのでご留意ください。
  • 「無能な教員」という表現が普通に使われていました。そういう表現・価値観が好きでない方はご注意を。 

【まとめ】

 気になる点もありましたが、情報量も多く、内容が現在の自分が知りたい情報と合致していたこともあり、非常に楽しく読めました。前回の記事で取り上げた本が現場視点で書かれていたこともあり、同じ大学職員向けの本であっても、筆者の立場や経歴によるテイストの違いを強く感じることができ面白かったです。最終章のブックレビューで紹介されていた本の中で気になるものがいくつかあったので、機会があれば読んだ感想をブログに載せたいと思います。